吃音症(以下吃音)とは、話をするときに相手や場面に関係なく「こ、こ、こんにちは」とはじめの音を繰り返したり「こーんにちは」と引き延ばしたり、また「・・・こんにちは」と言いたいことは決まっているのにはじめの音が詰まってしまうなどの症状により、なめらかに話すことが難しい症状のことをいいます。吃音がある人は、小学校や中学校の国語の授業で音読がうまくできなかったり、自己紹介で自分の名前に詰まってしまいスムーズに言えなかったりと、日常の様々な場面で困難に直面します。また、上手く話せないことが要因となり、人前に立つことに極度の不安を覚えたり、憂鬱な状態が続いたりと心理的な側面にも影響が出る場合も少なくありません。
吃音のある人は世界中におり、人口の約5%が乳幼児期に発症、その後就学以降も症状が残る人が約1%と言われており、決して珍しいものではありません。有名人ではプロゴルファーのタイガーウッズやマリリンモンロー、また日本でも田中角栄元首相やノーベル賞作家の大江健三郎さん、フジテレビアナウンサーの小倉智昭さんなどが、かつてまたは現在も吃音であるとされています。
吃音は古くから世界中の研究者がその原因と治療法について研究を続けていますが、残念ながら未だ決定的な原因は解明されておらず、治療法も確立されていません。しかし、近年の科学技術の発展、特に脳機能イメージング(脳の構造や機能を画像化する技術)の進歩に伴い、吃音者の脳は構造・機能ともに吃音がない人と異なる場合があることがわかってきました。かつては乳幼児期の母親の育て方が悪かったから、緊張しやすいから、ただの癖、などさまざまな理由が挙げられていましたが、前述の通り、吃音は言語機能の中枢である脳に原因があるとするのがメジャーとなっています。
また治療については、未だ多くの場合完治には至りませんが、言語聴覚士(言語訓練の専門家)等の専門家の訓練を受けることにより症状を改善することが可能です。特に近年は吃音の訓練に力を入れている言語聴覚士も徐々に増えてきており、まだまだ十分ではありませんが吃音者を受け入れている医療機関が増えてきています。
さらに、日本ではこの『うぃーすた』をはじめとした、吃音者たちによる吃音者のためのセルフヘルプグループ(自助団体)が複数あり、それらに参加することで吃音の悩みが軽減し、日々の生活が充実したものになったというような人たちが大勢います。特にこの『うぃーすた』は30代までの若者を対象としたグループで、同年代の吃音者にしかわからないような悩みや不安を共有し、みなで前向きに歩んでいく足がかりとなっています。実際に参加者からは、参加するまでは自分以外に吃音を持った人と会ったことがなく、同じ悩みを持つ人たちと話すことができてよかった、というような声が多く聞かれます。また、『うぃーすた』では吃音に関する勉強会やゲーム形式の発話練習なども行っています。
(文責:矢田康人)